2020.01.10
【富田雅樹さん】
全国トップクラスのユリの切り花生産量を誇る深谷市。
市内各所にあるお花見スポットや緑豊かな公園には、春は桜や菜の花、チューリップ、夏にはユリ、秋はコスモス、冬は梅と、四季折々の花々が咲き誇り、季節の訪れを告げる。
日本有数の花の街で、造園外構業と植木販売業を営む、富田雅樹さんを訪ねた。
富田さんは、祖父の代から続く花植木と造園資材の販売、造園工事を稼業とする家に生まれ、高校卒業後、18歳で職に就いた。26歳の時に個人事業主として独立し、植木造園資材の販売店を営みながら造園外構工事も自ら手掛けるようになる。2014年にはHUSUP(ヒューサップ)株式会社を設立。その2年後には、造園外構工事の専門店「ガーデンビレッジHanazono」をオープンさせた。
事業全体の90%を占める造園外構業は、前年比約150%で増加。成約率は業界では異例の80%前後を推移し、売り上げはオープンからの約3年間で当初の3倍にまで伸びている。
キャリアも実力も実績も、順調に積み上げてきたように思えるが、その道のりは決して平坦なものではなかった。
「元々、人と同じことは好きじゃないし、やりたくないという性格だったんで、みんなと同じように真面目にコツコツきちんとというのができなくて。言われたことを真面目に守って努力するんじゃなくて、何かぶっ飛んだことを一発やったら当たるんじゃないかとずっと思っていました」
「俺は、俺が一番正しいと思っていて、根本に『人の言うことは聞かずに生きていく』っていうのがあったんで、人からこうした方がいいと言われたことや注意されたこととは常に逆の方を選んで生きていましたね。26歳の時に独立したのも、親父と喧嘩して家を出たことがきっかけでした」
他者に対する反発心と反抗心。
それは、仕事だけでなく、自身の家庭や人生にも影を落とした。
「36歳頃まで人間関係のトラブルが絶えなくて。離婚して娘の親権も手放したり、警察沙汰になったこともありました。もう人生どうなってもいいやと、毎日焼酎を3本空けるような生活をしていて。重度の糖尿病も患って、医者にこのままだと死にますよって言われるほどでした」
「そういう時期に、仕事中に従業員と飯食ってて、『うちの事業が上手くいってないのは、お前らに足を引っ張られてるせいだ。もうやってらんねー』って弁当投げて出て行ったんです。パチスロしながら、俺はいつも正しい選択をして来たはずなのに、一体どこで間違えたんだと過去を振り返って。あの時俺は左を選んだけど、じゃあ右を選んでいたら良かったのかと、選ばなかった方の道の先をシュミレーションしてみても、成功するイメージが湧かなかったんです」
どんな選択をし、どの道に進んでも、その根底にある信念に誤りがあれば、遅かれ早かれ行き詰まってしまう。
富田さんは、時代や分野を問わず、偉人や成功者と称えられる人の話にヒントを求めた。
「本を読むのは嫌いだったんで、Youtubeで、渋沢栄一さんとか松下幸之助さんとか、成功した人の話を片っ端から全部観ていきました。生きた時代や活躍したジャンルが違っても、様々な苦労や困難を越えた人が悟ることや大切だと言うことはみんな一緒で。結局は『人間力』なんだと、その時気付いたんです。人間としての器がでかくないと人もお金もついてこない。従業員に尊敬されないから言うことを聞いてもらえない。お客さんにもこの人に是非任せたいと思ってもらえない。全てにおいて人間力が大切で、それまで自分が上手くいっていなかったのは他人のせいではなくて、全部自分の人間力が足りてないせいだったと気付いたんです」
仕事も、人間関係も、幸せも、全ては自分の人間力次第。
気付きと確信を胸に、心機一転してもう一度頑張り直したいと従業員に頭を下げ、事業の法人化を決めた。
いつまでも人間力の大切さを忘れぬよう、そして、社名を書く度に自分自身を戒めることができるよう、社名はHuman skill upから取って株式会社HUSUP(ヒューサップ)とし、未来を掛けて新たなスタートを切った。
HUSUPの造園外構工事専門店「ガーデンビレッジHanazono」は、深谷市とその近隣市町を主な施工エリアに、一般家庭から住宅展示場、病院、美容院などの商業・公共施設の造園と外構工事を一手に受ける。
しかし本来、造園と外構は別業界だ。
若い頃からの植木販売業で知見を積み、植物の特性を熟知している富田さんは、市内でも珍しい独自のスタイルを確立している。
「造園も外構もいくら見栄え良く仕上げても、お隣さんとの境界に成長の早い植物を植えたら、すぐに枝が出たり葉が落ちたりして後の管理が大変になるんです。だから、成長が遅くて葉が落ちにくい植物を庭の外側に使って、成長が早いものは内側に持ってくる。植物は基本的に西日に弱いから、建物の東側に持ってきて西日を避ける。もしくは、西日に強い植物の下に西日に弱い植物を植えて長持ちするようにする。外構の技術は後からいくらでも上げられるけど、何千種もの植物の特性は後からではなかなか覚えられない。うちは、植物をベースに造園も外構もまとめて手掛けられるから、仕上げた後もずっと満足していただける庭が造れるんです」
お施主様の理想と実際の暮らしに合う植物を選び、その植物の成長を考慮し屋内外からの様々な見え方を考えて、一本一本の位置や向き、傾きを何度も微調整して植える。
アプローチの曲線、角度、幅、使う資材の種類、石一つ一つの置き方、並べ方。
それらが少し異なるだけで、庭の表情はがらりと変わる。
植物と資材に対する確かな知識と技術、経験。
幾多もの選択肢から、最適な提案を導き出すセンス。
そして何よりも、一人一人の理想の暮らしを共に見つめ、その先に続く人生にも寄り添う庭になるよう思いやる心。
体力勝負のように見えて、実は、緻密な計算と繊細で視野の広い心配りが求められる仕事だ。
「お客様には、最初にご来店いただいた時に、造園外構工事は理想のイメージ通りの仕上がりが100点だとしたら、100点満点は取れない仕事だということを真っ先に伝えます。晴れたり曇ったり急に雨が降ったりすれば仕上がりに影響しますし、お客さんの方で植えたい木があっても、その木が成長が早すぎてすぐ手に負えなくなる樹種であれば、例え嫌われたとしても、後の手入れが大変になるから使っちゃダメだと正直に伝えています」
「庭造りって、お客さんが思い描く理想の暮らしや夢を形にするものだから、こっちも腹を割って庭造りのことも自分のことも嘘偽りなく正直に喋って、お客さんにも本音で話してもらってその人の本質まで理解しないと、どんな提案をしたら良いかが見えて来ないんです。だから、打ち合わせもなるべくフランクにしていて。庭の話は一旦置いておいて、一杯やります?みたいなこともうちでは多いんです」
事業を法人化する時も「ガーデンビレッジHanazono」をオープンさせる時も、しばらくは売り上げが伸びず、苦しい思いをすることは覚悟の上だった。
もしもの時はお店を、昼はカフェ、夜は飲み屋にして命を繋ごう。
そう考えて二層式のシンクを入れて作った対面式のキッチンは今、度々開かれる、お客さんも社員も下請けの職人さんたちも交えたパーティーに使われ、それぞれの本音のコミュニケーションを生み出すツールとして活躍している。
オープンから3年目を迎えた今、「ガーデンビレッジHanazono」への問い合わせや依頼の多くは、過去に庭造りを手掛けたお施主様からの紹介によるものだという。
「ある日、病を患った女性が『私はもう長くないから、最期に家の庭を綺麗にして欲しい』と訪ねて来られて。親しい友人5人に庭の事を相談したら、5人全員から俺のことを紹介されたと言って下さったんです。人の一生の最期の時を任されていると思ったら、お金とか売り上げとかではなく全力を尽くしたい、自分に出来ることの全てで応えたいと思いました。気持ちが入り過ぎてしまって、結局、利益ということではなくなってしまったんですけどね」
「会社を経営している以上、お金のことはもちろん大切です。だけど、金額とかではなく、優秀なスタッフと自分のことを信頼してくれるお客さんと、最高の仕事がしたい。いつも、ただそれだけなんです」
庭造りは、人の夢や理想を形にする仕事だ。
でも、富田さんは、それは単に物理的な形を造るだけの仕事ではないと語る。
「お施主さんが3歳のお子さんがいるご家庭だとしたら、『その子が20歳になって家から出て行くまでの17年を、より豊かな人生に変える』いつもそういう気持ちで仕事をしています。庭に子ども達が自由に遊べるスペースを作れば、そこで楽しい思い出が生まれるかもしれない。ウッドデッキを作れば、家族の新しいライフスタイルが生まれるかもしれない。従業員にも現場の職人にも、そこまで考えて、人を喜ばせ、人の人生を豊かにする仕事をするように伝えているんです」
富田さんが見据えるのは、お施主様と家族のその先の暮らしだけではない。
深谷という街全体がより良い方向に向かえるよう、広く心を配る。
「個人も企業も行政も、基本的には活動資金になるお金がなければどうにもならない。だから、地域の中で稼げる人がたくさん稼いでいっぱい納税したり、雇用を生み出したりして地域経済の発展に貢献するのは、その土地に根ざして事業をしている者の役目だと思っていて。そういう理由でうちは深谷市の『ふるさと納税』に造園セットの返礼品を出して協力しているんですが、それを通して深谷市に日本一の納税額を頂いたこともありました。地域の未来を創る子ども達にも夢を持っていて欲しいから、地元の少年柔道クラブにタイマーを買ってあげたり。自分が出来ることで深谷のより良い地域作りに繋がることがあれば、これからもできる限り続けて行きたいです」
「自分は大規模な地域開発には携われないけど、例えば、新しくできた分譲住宅の12軒中4軒の庭を綺麗にすると、新しい街並みがそこでちゃんと生まれるんです。うちは、深谷中心に年間50軒近くのお宅を任せてもらっているので、一軒一軒のお庭を綺麗にしていくことで、深谷っていい街並みだなと思ってもらえるような仕事を常にしていきたい。いつか、人が憧れてやって来てくれるような街にしていきたいです。それは、単に目に見えるところを綺麗に整えるということだけではなくて、地価を高めたり、住む人が増えて納税額が増え、地域経済が活発に回り始めたり。深谷という街がこれから先も永く発展し、深谷に住む人みんなが幸せに暮らせる街づくりにも必ず繋がっていくと思うんです」
人は、生きていく中でたくさんの出会いを重ねる。
けれど、初めて出会ったその瞬間から本音で向き合い、共に幸せを見つめようとしてくれる人に、何度巡り会うことができるだろうか。
富田さんが一人一人のお客さんと真摯に向き合い、その幸せを叶えようと手掛けた庭は、商業施設の新たな可能性を引き出し、家族の新しい暮らしと幸せを生み出し、人々の笑顔となって街を彩るだろう。
10年、20年先を見据えて仕事をするという富田さんには、日本有数の花の街・深谷の未来像が見えている。
(文:高田裕美 写真:矢野航)
<ガーデンビレッジHanazono>
住 所:〒366-0814 埼玉県深谷市大谷1087
お問合せ・ご予約:048-598-4930
営業時間:10:00 ~ 17:00 ※営業時間外・夜間でも予約受付中!
定休日:水曜日
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